2016年02月10日

空き家の増加なくして、日本の住宅問題は解決しなかった !!


中川寛子著 「解決! 空き家問題」 (ちくま新書 820円+税)

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最初に、この著書を一読した時、かなりにまとまっていると感じた。 しかし、再読しているうちに重大な問題点が抜けていることに気付いた。
「犬の遠吠え」 という言葉がある。
本人は、「これこそが空き家問題の解決策」 だと捉えているらしいが、これは 一つの提言にすぎず、この著作で言うのように、「これで空き家問題のすべてが解決する」 とは、どう贔屓目に見ても考えられない。
つまり、犬の遠吠え的な独善性がやたらに目につく。

著者が言わんとしていることは、「1968年の時点で、戸数が世帯数を上回っていた。 その後の人口動態などを考えていれば、戸数が増加し、日本の空き家率は大幅に増加することが分かっていた。 それなのに、政府は住宅投資額1億円に対して、波及効果が2.1億円程度にもおよぶ という住宅の波及効果の大きさのみを狙って、何一つ ブレーキを踏んでこなかった。 つまり、経済の成長のみを考え続けた。 その結果が現在の空き家率の増加になっているだけで、政府の無策の証明にすぎない」 と断定。
非常に正当な意見のように考えられるが、空き家の戸数にとらわれていて、40年前から関係者の間で議論されていた大切な論点が、すっぽり抜けている。

たしかに、1968年には戸数が世帯数を上回っている。
私が住宅ジャーナル誌の編集長を命じられたのも、その前後だったと思う。
業界内の人々に呼びかけて初めて42人からなる 「アメリカ住宅産業視察団」 を派遣したのは翌1969年。 その時、初めて地場のホームビルダーを中心としたアメリカの住宅産業の 合理的なシステムの存在を発見した。 翌々年には100人近い人々が アメリカの合理的で安価で、高性能な住宅に直接触れて、感嘆の声を挙げていた。
その時、日本で建てられていた住宅は、ペラペラの新建材を使った薄っぺらい住宅だった。 とても資産として評価出来る代物ではなかった。 何とかしてペラペラの資材を厚い資材に変え、断熱材をたっぷり使い、チエを絞って現場の生産性をあげ、アメリカ並の価格で 高性能な住宅に一変させることこそが、当時の住宅業に携わっている者に課せられた最大の課題。
そのためには、北米で広く採用されているツーバイフォー工法を、誰でも自由に使えるようにするために、オープンな形で 導入する必要があった。 その必要性を説いて回ったら、当時の建設省の住宅局長、指導課長、生産課長をはじめ全局員が理解を示してくれた。 それだけではなく金融公庫のすべての技術者が、理解を示してオープン化に協力してくれた。
かくて、41年前にツーバィフォー工法はオープン化された。

つまり、新建材のペラペラの住宅をいくら建てても、日本にストックとしてふそわしい住宅が増えることにはならない。 また 戦火をくぐり抜けてきた古い在来木軸は、断熱材を一つもまとっておらずスカスカの住宅。 こうした住宅を追放して、ストックにふさわしい 「高性能な住宅づくり」 が求められていた。
当時、真剣に議論されていたのは、「ストックとしてふさわしい住宅とは、どんな住宅であるべきか」 ということであって、「空き家が目立つようになってこなければ、このテーマが社会的に認識されることはなかろう」 と私は考えたし、当時の官僚の考えも同じだったと思う。
そこで、カナダ政府が主体になって進めようとしていたQ値が1.3~1.4Wの 「R-2000住宅」 に眼をつけた。 幸い建設省の推薦を得て ツーバィフォー協会として取上げることになった。 大手の三井ホームや地所ホームも最初は意欲的で、協力的だった。 絶対にうまく行くはずだと信じていた。
「R-2000住宅の設計・施工マニュアル」 も完成し、研修も無事に終了した。 そして、実施段階に入った時点で、工事を外注に出しているツーバイフォー大手各社が、カナダでは軽く突破していた気密性能(C値) の 0.9c㎡/㎡ がクリアー出来ないことが判明。
何度となくトライさせたが、0.9c㎡/㎡の壁が突破できず、事前に派手なPRをしていたこともあって、クレーム商品になってしまった。
意慾のあったツーバィフォーの大手メーカーでこの有様。 三井ホームや地所ホームが出来ないことは、鉄骨プレハブメーカーばかりでなく、ミサワや住林に出来るわけがない。
かくて、日本の大手住宅メーカーや国交省にとっては、「気密性」 が大きな目の上のタンコブになってきた。

結局はどうなったか?
ご存知の通り、国交省のあらゆる書類から、「気密性」 という言葉を消してしまった。
いいですか?
マンションに住んでいた多くの住人が、あこがれの 「戸建て」 に住み替えたら、冷たい隙間風にあたって、「マンションの方が一番暖かい」 と誤った認識を持っているのが現状。
R-2000住宅の0.9C㎡/㎡さえクリアー出来なかった日本の大手ハウスメーカーに、パッシブハウスの0.3c㎡/㎡という気密性能をクリアー出来ると思いますか?
以来、大手住宅メーカーと国交省にとっては、ヨーロッパのパッシブハウスはご法度に。 Q値に変わってUa値を設定したりして、「ヨーロッパと日本は基準からして違うのだ」 ということを見せつけようと懸命な努力を払っている。
何のために今までQ値を使っていたのか?  Q値を変える必然性は本当にあるのか?
そんなわけで、日本の省エネ性と気密性は完全に遅れてしまった。
当初の予定よりも 遥かに遅れてしまった責任は、そのほとんどが高断熱・高気密化を 意識的に嫌った大手住宅メーカーと国交省にある‥‥というのが私の判断。

たしかに、住宅が持つ関連業界に及ぼす影響の大きさから、景気対策の一貫として新設住宅の建設が考え続けられてきたという事実は、否定出来ない。 そうした側面も多いにあるだろう。 しかし、大手住宅メーカーと国交省の慣れ合いで、本来取るべき政策がおろそかにされてきたというマイナス面の方が、より大きかったと私は考える。
つまり、日本に残されている空き家の80%以上が、欧米の常識から言って、住めるような代物ではない。 本来は、早々に潰すべきもの。
それが、大手住宅メーカーの我欲と国交省の恣意的な行為によって、意識的に取り残され、放置されてきたまでのこと。

7年前にドイツへ行った時、ドイツ政府から中高層の賃貸住宅の断熱改修の現場へ案内された。
その断熱改修の現場は、旧東ドイツ時代に建てられたもので、5階建の賃貸住宅から、8階建まで軒並みに断熱改修工事がが行われていて、半日にわたって詳細な説明を受けた。
RC造の外側に100ミリ厚のロックウールが施工され、半湿式の塗壁仕上げ。 サッシも同時にPVCのペアに取換えられていた。
それだけではない。 バルコニーには吹きさらしではなく、アルミサッシを入れて南面の暖かさを確保するとともに、北面の階段室にもサッシを入れて、寒さを防いでいた。 換気に十二分に配慮をした上で、屋上空間を利用して各戸に配る温水施設も施工されていた。
日本の公団住宅や公営住宅も、このような断熱改修を行えば、どれほど多くの人が助かるだけではなく、どれほどエネルギーの節減に貢献出来ていることか? 
ドイツ政府がやっていたことを、国交省の役人が知らない筈は絶対にない。 彼らにドイツ並の前向の考えがあったなら、日本の賃貸住宅はマンションも含めて根本的に変わっていたはず?
こうした発想の裏づけのない空き家対策は、果たして対策といえるだろうか?

そしてこの著では、やたらに土地の持つ利便性が強調されている。
たしかに、賃貸住宅やマンショなどで土地の立地が持つ利便性が強調されるのは理解できる。
だが、冬暖かく夏は涼しくて安眠が出来、子供を安心して育てられる燃費がほとんどかからない住宅であれば、例え通勤時間が片道30分余分にかかったとしても、全ての人が利便性だけで住宅を選ぶだろうか?
そうした代替案を提案出来ないところにこそ、現在の空き家問題の本質があるような気がしてならない‥‥。

ともかく、人口が少なくなってゆくのだから、そこいらの不便な空き地を利用したアパート業のほとんどが成立しなくなってくる。 土地があれば、何とか食べて行けた時代は終わり。 そんなアパートを相続してくれる人もいなくなる。
と同時に、親が死んだら、下着や雑貨と一緒に住宅を処分するということを真剣に考えなければならない時代が、すぐそこまできていると思う。
そして、それこそ2世代にも3世代にもわたって、住宅として愛でられ続けるような、ホコリがなくて空気がどこまでも澄んでいて、燃費が少なくて済むストック住宅を建てることこそが、一生の願いになってくるのではなかろうか。




posted by uno2016 at 08:09| Comment(0) | 技術・商品情報 | 更新情報をチェックする
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