2016年03月30日

10数年前の「ソーラーサーキット」でさえ、これほどの“褒め言葉”



深谷賢司著「家族の健康を守る家」(PHP 1300円+税)

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著者は脳神経外科の専門医。
2005年に自宅を建てる前に、モデルハウス巡りをして、大手住宅会社の デザイン偏重主義や珍しい内外層建材を多用している 「目眩まし住宅」 に、疑問を感じた。
なぜなら、生まれた自宅を含めて、すでに木造1戸建てや 鉄骨造のアパート、鉄筋コンクリート造の官舎など、すでに8戸もの住宅に住んだ経験があり、どの家も寒く、しかもどの家でも結露が激しくて窓の内側はグッショリ濡れていた。 それだけではなく、引越荷物を出すとベットの下が水溜りのように濡れていたり、家具の裏側にはカビがビッシリと生えていた。
寒さのせいで 家族はよく風邪をひいたり、カビのせいで家族の多くがアレルギー症状を見せることも 珍しくなかった。 こうした根本原因の対策を、住宅メーカーの 営業マンに聞いても、納得できる返事に巡り合えなかった。
そこで、住宅関係の本を買い込んで、自分で猛勉強をすることにした。

福井県生まれの著者は、金沢大学医学部を1994年に卒業し、国家試験にも合格して 晴れて医者として金沢大学付属病院の脳神経外科に配属された。
ご存知のように、大学病院というのは非常に上下関係が厳しいところ。 若いドクターは見習として、ひたすらに教授の指示通りに動かなければならない。 下積み生活に耐えねばならない。
そして1年も経った頃に、やっとメスを持つことを 許されるようになる。 と同時に、やはり教授の指示で、あちこちの病院へ派遣されるようになる。 派遣先では先輩ドクターに密着して、さらに修業を重ね、腕を磨いてゆく。 
最近は、ここまでハードな指示は無くなったようだが、著者が 20歳台から30歳台の前半まではそれが当り前えに横行。
医学部を出て、医師免除をとれば、歯科と麻酔科以外はあらゆるジャンルの診察が行える。 内科でも外科でも、耳鼻咽喉科でもOK。 3~5年の経験で1人前になれる場合もある。

しかし、著者が選んだ脳神経外科というジャンルは厳しい。 生半可な知識や技術、経験値で患者さんと接することは許されない。
万が一、手術に失敗してしまえば、助けられる命も助けられないこともある。 失敗の仕方によっては、患者さんが一生歩けなくなる危険性もある。 それだけの重責を負う脳神経外科の世界ではこのような厳しい修業を、最低でも10年は積む必要があると言われてきた。
金沢医大が管轄する範囲は、北陸3県。 その中で 鉄骨造アパートや木造1戸建て、RCの官舎を含めて 以下の7ヶ所に派遣された。

①石川・金沢市  鉄骨造アパート  築20年以上
②石川・七尾市  RC造 官舎      築20年以上
③福井・福井市  木造1戸建て   築20年以上
④富山・高岡市  鉄骨造アパート  新築
⑤石川・金沢市  鉄骨造アパート  築5年
⑥富山・高岡市  木造1戸建て   築3年
⑦富山・富山市  鉄骨造アパート  築15年

結婚が早かった著者は、転勤に次ぐ転勤、引越しに次ぐ引越しにの度に、家族も一緒に引越し。 しかし、子供の数が3人を越えたあたりから引越作業が重荷になってきた。 つまり、30歳台の前半まではそれでも頑張ってきた。 だが、子供が次第に大きくなってくると、簡単に 「また引越しだ」 と言いにくくなってきた。 2001年に博士号をとった機会に、「大学病院を辞めて、どこか別の病院で働く」 ことを決意。
2003年に大学病院をやめて、京都・福地山市の小さな病院に移った。 その病院の内科の先生が京都の綾部ルネス病院に移ることになり、一緒に誘われた。 そして、福地山市でも木造1戸建ての借家に住んでいたが、副院長にも昇格したので、本格的にマイホーム計画に とりかかったという次第。

独学で住宅の勉強をしている中で、著者が覚えたのは、Q値とC値。 この言葉は、単に日本だけでなく、世界各国に通用する 「住宅の性能値」 を示す言葉。
どんなにデザインが良くても、豪華な建材を 使っていても、Q値とC値が低かったら、夏は暑い家になるし、冬は結露だらけの寒い家になってしまう。 このQ値とC値こそが、住宅の性能をピタリと表現するものだと筆者は確信。
ご存知のとおり、Q値は 「熱損失係数」 といって、外壁・天井・床・換気などの各部位から熱量を計算し、これを延床面積で割って熱損失を計算。  今まで東京などは2.7W/㎡K、北海道が1.6W/㎡Kというのが次世代住宅の基準で、札幌市では0.5W/㎡Kという すごい基準を作り、これが頭の中にに叩きこまれている。

ところが2013年に省エネ基準が改正され、Q値ではなくUA値 (外皮平均熱貫流率) で表現されることになった。 つまり 今まで床面積という限られた面積で表示していたものが、約3倍もの広さで割られる。 つまり、今までQ値が2.7Wであった東京のUA値が0.87Wと1/3以下になってしまった。 同じことで、北海道の1.6Wは、1/3以下の0.46Wということになる。
つまり、2.7Wと1.6Wでは大きな1.1Wと大きな差があるように感じるが、0.87Wと0.46Wでは、たった0.41Wしか違わない。 同じことで、鉄骨プレハブと高断熱木造は、4.0Wと2.7Wでは1.3Wも違うが、UA値だと1.35Wに対して0.87Wだから、たった0.48Wの差でしかない。
いかに、国交省の関係者が詭弁を使おうとも、明らかに プレハブなどの大企業に摺り寄った住宅局の醜さがクッキリ浮彫りにされている。 その住宅の性能の悪さを、Q値をUA値に 変えることによって、差を小さく見せる小細工以外の何物でもない。

C値というのはご案内の通りで、「隙間相当面積」。 1㎡当り何c㎡の隙間があるかでその家の隙間を測定する。 誰しも知っているように、隙間の大きな家は冬は寒いし、夏は外から高温多湿が遠慮なく入ってくる。 隙間の無い家ほど暖かくて涼しいことはネコでも知っている。
そのことに著者は気が付いた。 以来、筆者は住宅メーカーの説明会のある度に 「ところで お宅の住宅のC値とQ値はどのくらいですか?」 と、必ず聞くことにしている。
ところがある著名な住宅メーカーの営業の責任者の答えは、信じられないものだった。
「えっ! それはなんのことでしょうか? すみませんが、聞いた事がないので分かりません」
21世紀になったばかりの頃は、私などが騒いだので、東京の大手の営業マンは Q値とかC値についてはそれなりに知識があったはず。 だが福知山市では、まだ一般的には知られていなかったのであろう。 それにしても勉強していなさすぎると、著者は呆れている。

しかし、住宅を建てるとなると、その前に土地を手当てしなくてはならない。 併行して進めている中で、福知山・小谷産業が高台の良い土地を紹介してくれた。 その土地が気に入ったので、ついでにどんな家を建てているのかを聞いてみた。 そしたら、「ソーラーサーキットの代理店もやっているという」。 あまり聞いたこともない家だが、持論の 「その ソーラーサーキットというのは、Q値とC値はどれくらいなの?」 と、何1つ期待もせずに聞いてみた。
そしたら、営業担当の大槻氏が 「C値は1.0c㎡/㎡を目指していますが、実際には建築途中の計測では0.5c㎡/㎡程度の数値が出ています。 Q値については、設計時で2.0Wを目標にしています」 と言うではないか。
いままで、大手住宅メーカーに聞いても、まともに Q値やC値に対して正しく返答が出来なかったのに、田舎の小さな不動屋さん兼工務店が スラスラと答えてくれたことに対して、著者は感動して、一気に小谷産業ファンになってしまった。 そして、ソーラーサーキット工法を躊躇することなく選んでいる。
したがって、残念ながらこの著は 「ソーラーサーキット礼賛」 の著になってしまっている。 著者にもっと選択眼があったなら、ソーラーサーキット以上の 超高気密高断熱住宅が選択出来たのに、と惜しまれてならない。

著者が書いているように、ソーラーサーキットは外断熱で2重の通気層を持っている。 一つはいつも開いている通気層で、この通気層は北海道で開発されて 全ての高気密高断熱住宅に採用されているもの。 そして、夏期だけに開くもう一つの通気層を 内側に持っている。 メーカーの説明では、夏期に涼しい空気を通すため と言っているが、夏期は高温で湿度が高く、内部の通気層はやたらと工費を食うだけで、全く役立ってはいない。 もし、ダブルの通気層が役立つと言うことが分かれば、他の業者も一斉に採用するはず。 なのに、海外を含めて 誰一人として採用したいとは考えていない代物。
それよりも必要なのは、夏の除湿であり、冬期の加湿。
このことは、いまさら書くほどでもない。 すべての読者は熟知済み。
そして、カネカがソーラーサーキットを売出した時点で、Q値がカネカよりも優れていたカナダのQ値が1.2~1.4WのR-2000住宅が売出されていたし、新住協では文字通りキュー・ワン (Q-1.0) 住宅を売出していた。 いずれも、Q値・C値ともソーラーサーキットを上回っていた。
しかし、それを施工出来るビルターが地場に居なかったということだろう。
それどころか、数年前からドイツで大流行の 「パッシブ・ハウス」 が日本でも売出され、日本の高気密高断熱住宅というと、Q値は0.8W以下で、C値は0.3c㎡/㎡以下が常識になってきている。
国交省が定めたトップランナー方式の1.9WというQ値に拘っているのは、性能が出せないプレハブなどの大手メーカーばかり。

だから、その低性能が目立たないように、UA値などという小細工をやると共に、政府のあらゆる書類から 「気密性」 という最も大切な性能を抹殺してしまった。
これをやった大手プレハブメーカーと国交省住宅局のメンバー全員が、頭を剃って国民に詫びる必要が絶対にある。
そして、残念ながらカネカも深谷氏も、その性能の低さを恥じて、少なくともR-2000住宅なみにまで、性能を上げる義務があると、私は確信するのだが‥‥。 




posted by uno2016 at 10:59| Comment(0) | 書評(建築・住宅) | 更新情報をチェックする
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