2016年05月20日

大規模災害時の危機管理体制は、どこまで進んでいるか?


鈴木哲夫著「期限切れのおにぎり」(近代消防社 1500円+税)

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何の気なしに手に取った本。 
東京直下型地震が起こったら、一体どんなことになるのかと考えさせられた。 いや、東京だけではない。 現に熊本は震度7の直下型地震に2度も襲われている。
そして、これはなにも熊本に限った現象ではない。 四国でも、中国地方や近畿、北陸、中部、関東、東北、北海道でも 地震国日本では、どこでも熊本なみの被害が起こり得ると考えるべきなのだろう。 そして、消防所や自衛隊だけではなく、地方の自治体が自由に対処出来るるように法体系を整備するだけでなく、予算的にも対応できるようにしてゆかねばならない。
筆者は、2011年の東日本大災害だけではなく、阪神淡路や中越地震のトップ10人から いろんな意見を聞き出していて、非常に参考になる。
それらの全てを紹介したいのだが、紙面の関係上全員の意見を紹介することは出来ない。 その中でも代表的な3氏に絞って、ポイントになる話題を紹介したい。

●東日本大震災で、消防団員の234人が殉職者   久保信保元消防庁長官
消防は、東京都をはじめ各市町村長の管理下に置かれている。 予算も各自治体によって措置、運営されている。 阪神淡路大震災の折に、これでは緊急時には国の統一したラインのもとでの消防活動が出来ないことが分かり、緊急消防援助隊が出来た。
しかし、国の予算は200億円に過ぎず、大部分の1兆9000億円の地方自治体にオンブしている。 指揮命令系統も、また任命権も各自治体の長にある。 緊急消防援助隊といっても、予算措置や命令系統がハッキリしない。 その中で、東京都をはじめ地方自治体が積極的に協力して頂いたので、何とか東日本大災害は乗越えられた。
しかし、消防というのは、災害が起きた時に10人がいたら、全員が第一線で戦う という仕事振りを求められている。 軍隊なら半分は前線だが、残りの半分は後方支援。 このため 東北大震災では234名も殉職者を出したのが消防団員。 何しろ、原発まで仕事が回ってきた。
原発というのは、東電などの手に負えるものではない。 本来は 次の2つのことが、守られるべきだと思う。
1つは、国の組織として 『特殊消防隊』 と言うような新組織を作ること。 もう1つは、もし現在の形で行うとしたら、原発など国家事業に取組む消防団員を、国家公務員の資格者にすること。
でないと、あとあとの放射能治療が、うまくいっていない。 この2つが絶対の条件だと思うが、のどもと過ぎれば何とかで、いまだに未整備。 これは大変に残念なこと。
さらに、東京直下型地震が発生した場合は、倒壊した瓦礫などで車で被災地に近付けない。 どうしても、ヘリコプターで 『空』 を使うしかない。 そうなれば ヘリが圧倒的に足りない。 予算的な処理も問題だが、自衛隊との話合いを早急に行う必要がある。
それよりも必要なのは、住民の意識改革。 「自分の命は、自分で守る」 という自主防衛意識。
隣近所と一緒になり、自らを自分を守ろうとする意識と行動。 現在、全国に15万を超える自主防災組織があるが、多くの住人はその組織の実態を知っていないと思う。
消防に出来ることは、そうした 自主的な防災組織との連絡を密にとって、避難場所の再確認と再選定を行うこと。

熊本の例を見ても、法整備が遅れていることが納得出来る。
と同時に、直下型の地震対策として、地場の自主的な防災組織の必要性が再確認させられた。 私は今まで個々の住宅の地震対策や防火対策のみに力点を置いてきた。 地場ビルダーとしては当然耐震性や防火性に力を入れるべきだが、地域の自主的な防災組織にも 注力を注ぐべきだということが骨身に染みた。 そういった主張に沿った運動を、これからやって行くべきだろう。

●原発では、中央の司令塔を一本化出来なかった   先崎 一自衛隊初代統合幕僚長
陸海空の統合幕僚を作る準備をしている時、スマトラの地震が起こった。 このため、陸海空の部隊が初めて統合組織で情報を共有して、スマトラ災害支援活動が出来た。 この経験があったので東日本大震災の際でも、統合組織で連携して地元の人々から歓迎を受けて 災害支援をキチンと行い、機能を果たせた。
やはり何と言っても大きかったのは、スマトラも東日本大震災の場合も、アメリカ軍と 共同で仕事をやったことだと思う。 アメリカは世界を 5つに分けてそれぞれのエリアも災害に対応している。 スマトラの時は、沖縄の司令官がトップに立って、空母などを含めて 1万数千人を指揮下に入れ、情報も一元化して災害に当った。 日本の統合組織もその情報を共有。
今回の東日本大震災の場合は、横田基地内にアメリカ軍のスタッフが 200~300が入って、有事の展開部隊を作ってくれた。 このオペレーションの名は「ともだち」と名付けられ、日米で全ての情報を共有し、順即に対応が出来た。
それと、初動は素晴らしかった。 これは、阪神淡路や中越地震での教訓が活かされたせいだと思う。 具体的には、毎年東北地方の自治体と自衛隊が 一緒になって訓練をやってきた。 この訓練の中で自衛隊の仕事の内容を理解され、お互いに信頼関係が築かれてきたことが大きい。
自衛隊の派遣要請は知事が行う。 岩手県の場合は 6分後だったと聞いているし、宮城県の場合は16分後だったと聞いている。 信頼関係があったからだ と思う。
それと、これはあまり知られていないことだが、各県庁には自衛隊のOBが 防災担当官として出向している。 その仕組みがあったので、パイプ役のOBが 「自衛隊をどう活用したらよいか」 について、貴重なアドバイスが出来たことも大きかった。 地方自治体と一体になって災害に対応できるという形が、出来上がってきた証左だと言えよう。
自衛隊員は10万人近くいるが、防衛警備、国際協力、PKOなどもあって、現場へ投入出来るのはせいぜい50%近くでしかない。 具体的な仕事としては人命救助、遺体の捜索、避難所への給水・食料の供給、仮設の風呂、衛生・医療の支援、道路・橋梁の建設など。
胸まで水に浸かり、水中で瓦礫と戦いながら日に平均80遺体を収容していた。 遺体の中には幼い子供も多い。 このため若い隊員はショックを受け、ギリギリの精神状態になるが交代要員もいない。 隊員のメンタルヘルスをどうするかが大問題に。

それよりも問題になったのは、原発に対して 国家として自衛隊が何をすべきかが明確でなかったことが最後まで影響した。 自衛隊の中には 化学防護の専門部隊がある。 この専門部隊でやってきたのは、検知、住民の避難誘導、放水、放射能の測定と除染。 専門部隊が表に出たので、中央の司令部が最後まで一本化が出来なかった。
原発のために 自衛隊が一元的にコントロール出来なかったことが、最大の課題として残された。

●賞味期限切れのおにぎりをどうするか   森 民夫長岡市長
ご案内の通り、長岡市は2004年の中越地震で 壊滅的な被害に遭っている。 その時のお礼も兼ねて、東日本大震災の折には、黙って1000人の原爆被災者を受入れている。
1000人中には、最高97歳という人もおれば、車イスの人も、妊娠9ヶ月という妊婦も いる。 こんな人を一つの体育館に過ごさせるわけにはゆかない。 長岡市は、体育館での避難で貴重な経験を持っている。 幼い子が夜泣をするので、母親は周囲に気を使ってストレスが溜まって倒れた前例や、着替えが出来ない女性や授乳などにも対応してきた実績がある。
1000人を受入れる細部対策も、おろそかには考えていなかった。
また、個人から支援を全部断った。
全国の良心のある人々が、一つの箱にトイレットペーパーから肌着、離乳食まで入れて送ってくる。 それを分類するだけの職員がいない。 手が足りないので何万箱も 倉庫に保管されたまま。 したがって、森市長は勇気をもって個人の支援を断った。
個人から個人へ送るのには問題がない。 どうしても、役場へ送りたいと考える人は、地元の役場で分類して貰って、送るようにして欲しいというのが、被災地の実態。 それを知ってもらうために、敢えて個人支援を全面的に断った。

それと、避難所でいつも悩まされるのが食中毒。
困っているからと、いろんな食料品が次から次へと届けられる。
しかし、夕方届いたものは、その夜のうちに全部に配れる訳がない。 長岡市の場合は 125ヶ所に配らねばならない。 その日の夜に配れるものと考えて、わざわざ「真空パック入りの温かいおにぎり」 が送られてきた。 翌日まで持たないと判断した市長は、全部を廃棄処理にした。
それを、「善意が廃棄処理された」 とジャーナリストが書立てたことがある。
もし、集団食中毒事件が起こったら、それこそジャーナリストの好餌どなっていたろう。
また、行政は常に 「公平性」 が一番大事。 不公平性は出来るだけ慎まなければならない。
しかし、非常時には 「公平性を無視してもよい」 と言うのが長岡市長の持論。
非常時に、公平にやろうとすると、やたらに時間がかかって、対策が取れなくなってしまう。
例えば、ある避難所で問題が起きたと仮定する。 解決するために即時に職員を派遣したりすると「なぜ、あの避難所だけを特別扱いするのか‥‥」 との批判が出てくる。 今 直面している問題解決のためには、リーダーの責任で不公平になることも選択しなければならない」。 つまり、批判を覚悟して、「不公平」 を実行する判断がトップに求められる。
そういった非日常的から遊離した判断を下せないと、何も進められないことになってしまう。




posted by uno2016 at 07:21| Comment(0) | 書評(その他) | 更新情報をチェックする
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