2016年05月25日

爆買いは台湾では恒例行事。何故中国本土まで拡大したのか?


鄭 世彬著「爆買いの正体」(飛鳥新社 1296円+税)

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著者の鄭世彬 (チェン・スウビン) 氏は1980年に台湾・台南市生まれというから36歳と若い。
日本では2015年から中国人旅行者の 「爆買い」 が大きな話題として新聞、テレビなどを賑わせてきている。 
日本を訪問した外国人は 2014年には1341万人で、一番訪日人が多いのは人口が一番少ない台湾で283万人、次いで韓国が276万人、中国が241万人、香港が約93万人。その他が448万人。 華人が何と46%を占めている。
これが2015年には訪日客が47.2%も増えて、1974万人に。
内訳は中国499万人と倍増し、韓国も400万人と45%の増、台湾も30%増の386万人、香港も63%増の 152万人、その他が 537万人。 華人の比率は約53%へと急増。
中国は人口1兆3000億人の国だから、500万人と言っても0.4に過ぎないが、人口2350万人の台湾にとっては386万人というのは16.4%にもなる。 毎年これだけも多くの台湾人が 日本を訪れているとは知らなかった。
なかでも、中国、台湾、香港など華人による 「まとめ買い」 が多く、日本経済全体に 大きな影響を及ぼしてきている。 このため、「爆買い」 として騒がれるようになってきた。

台湾の百貨店などでは、日本のように 季節ごとにバーゲン・セールを行う習慣がなく、年に1度だけ10~12月にかけて 「周年慶」 と呼ばれる歳末大バーゲンが開かれている。
提供されるのは衣料品だけではなく、家電、日用品、食材のすべての商品を網羅した “お祭り” だという。
このお祭りの時は、すべての商品が3~6割でデスカウントされる。
したがって、台湾のすべての家庭では 「この好機を逃がしてはならじ」 と、半年分から 1年分をまとめ買いするのが常識。
当然、テレビなどでその賑わいが放映されるので、国民的な関心が集まり、30~50代の女性を中心に、あらゆる層が買物に走るらしい。

中国のことわざに、「防範未然」 という言葉がある。
これは 「あとで困らないように、事前に備えておく」 という意味。
何しろ中国では、2000年以上も前の昔から、王朝が変わる度に社会が混乱したり、多くの自然災害に見舞われてきた。 したがって一般庶民の間で、食料品や生活必需品を 買いだめしておくというのは必然的な自衛策。
「買える物は、買えるうちに買っておく」 と言う鉄則が生まれてきた。
台湾では、爆買いは珍しいものでも何でもなく、毎年繰り返される恒例行事。
台湾のテレビ報道によると、2015年の 「新光三越」 の台湾国内の主要6店舗の 「周年慶」の初日の総売上高が56億円 (14億台湾元) だったという。 台湾人の平均収入は日本の1/3ということを考えると、すごい数値だと分かる。 まさに爆買い。

しかし、台湾はいつもバーゲンをやっているわけではない。
その点、日本は台湾に比べると、いいものは ほとんど安い。 とくに日本産のクスリや化粧品は台湾の半額近いという。
たとえは、参天製薬の目薬 「サンテFX」。 
台湾では入手出来る価格は1050円 (300台湾元) 程度。 もっとも 関税や営業税 (日本の消費税) に加えて販売業者の経費やマージンも加わるのだから この価格は当然。 最近はそうでもなくなってきたが、ここ数年来の円安で驚くほど日本製品は安かった。
日本のドラックストアなら、おそらく 300円台で入手出来たであろう。
台湾人にとって、日本は 「毎日がバーゲンセールを行っている国」 に見えたとしても、不思議ではない。

それと、台湾で日本のお土産として嵩張らず、値段も手ごろだとして喜ばれているのがクスリや化粧・美容・健康などの商品。
華人というのは、「面子」 を人一倍重んずる国。 旅行に行ったとなると、誰もがお土産を期待する。 とくに日本への旅行となると30~50万円のお土産を買込むのが当り前。
漢方の考えに 「有病治病、無病強身」 というのがある。 これは、漢方は 病気の時は病気を治し、病気でない時は身体を丈夫にする、という考えに基づいている。 台湾では 薬膳料理が盛んで、豊富。
日本の感覚と異なり、健康な時にも漢方薬を口にする。
つまり、鍋料理の中にも漢方薬を入れる習慣のある台湾では、日本のクスリは、お土産として最適で、日常的に使われていると考えて良い。
それと、台湾の人が日本へ行くと聞くと、必ず友達や知り合いからクスリ・化粧・美容・健康商品を買って来るように依頼される。
このほか、利ザヤを稼ぐために、日本から商品を購入する業者も多い。 これ等が重なって、かなり前から台湾人による日本でのまとめ買いは行われていた。

そもそも 「爆買い」 の動機になったのは、著者が台湾人のために 2012年に発行した 「東京のクスリと化粧品に関する購入マップ」。 
この著書は、外用クスリ編と内用クスリ編の上下2冊からなっている。 この本は、日本語が話せても読めない多くの台湾女性を中心に人気を博して、人口が日本の1/5に過ぎない台湾で1万部も売れたというベストセラー。
そして、翌年中国の出版社から、「版権を買いたい」 との問合せがあった。 「何故か‥‥」と著者が聞いたら、中国でも 日本のドラッグストアに対する関心は高い。 しかし、中国人が書いたものだと誰も信用してくれない。 台湾人の貴君が書いたものだと 者は安心して内容を信頼してくれる」 と言われた。
しかし、中国では海外の書籍を出版する場合は、一文字一文字をチェックするため、やたらに時間がかかり、出版されたのは2014年になってから。 しかも、基本的な構成は踏襲されていたが、表紙のデザインや著者の略歴が勝手に書換えられていて、それはひどい内容に変身させられていたという。
そして中国のことだから、当然のことながら 「海賊版」 が出回り、また中国のネットでの日本のクスリを 「神薬」 と紹介する記事が氾濫して、2015年の中国人による日本のドラックストアでの 「爆買い運動」 になっていった。

そして、台湾では炊飯器はとっくに買っていたし、まとめ買いは主にクスリ・化粧・美容・健康に限られたが、中国人の爆買いには日本製の電気炊飯器や温水洗浄便座が含まれている。
これに対して、著者は 「中国人に炊飯器が人気があるのは、内釜の材質と 付帯設備が優れていてコメがおいしく炊けると口コミで拡がったこと。 また 椎名誠氏などが明らかにしたように、中国の共同トイレは仕切りがなく、プライバシーが確保されていない。 その上 あまりにも汚く、トイレコンプレックスに悩まされているせいだ」 と断定している。
たしかに、貧富の差が激しい中国の公共のトイレは 汚なさすぎる。 このため、せめて我が家だけでも綺麗にしたい、という焦燥感は分からぬでもない。
だが、日本の一部の識者が言うように、「中国は経済成長が鈍化しているので、爆買いは間もなく終わろう」 という見解には、著者は反対している。
たしかに、円安の環境は急速に変わってきている。 けれども、台湾や中国の華人の 「まとめ買い」 の伝統は、急に変えられるものではない。 形は変わっても、華人による 「爆買い」 の伝統は今後も続くと読んでいるようだ。

評論家の中村正人氏が指摘するように、筆者はマーケティングとかコンサルティング畑の人間ではない。 どちらかというと、作家性を持った人間。 したがって第1章は面白いが、第2章以下はあまりに参考にならない。
それにしても、爆買いの裏話を正しく伝えてくれていて、大変参考になる。 たが これからのことは、筆者に任せるのではなく、日本人が責任をもって考えるべき。
筆者の指摘にある通り、日本のドラッグストアそのものが、中国人などの採用でサービスが大きく変質してきていることを、日本人はもっと理解すべきであろう。




posted by uno2016 at 07:03| Comment(0) | 書評(その他) | 更新情報をチェックする
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