2016年08月30日

「マグネチュード」より「震度」がポイントになる消費者と地場ビルダー (上)



日経ホームビルダー編 「なぜ新耐震住宅は倒れたか」 (日経BP 2400円+税)

新耐震住宅.JPG

私は今まで、地震が起るシステムが知りたいので、地震学者とか気象庁のお偉いさんの言うことを黙って聞いてきた。
とくに 「地震を語る」 とになると、口角泡を飛ばして各大学の諸先生方が興味を示すのは、海溝型のマグネチュード8~9の大地震。
今年の4月16日の未明に起きたマグネチュードが3.5という熊本地震の本震などには、洟もひっかけない。 震度6強が2回、6弱が3回も起きているのに、全く関心がない。彼らが語るのは 東海から四国沖にかけて、今後30年以内に70%の確立で起ると言われている 「南海トラフト」 地震のことや東京の直下型地震のことのみ。
しかし、私がいままでに取組んできたのは、大学教授を喜ばせるための海溝型のマグネチュード8~9という地震ではない。 
1995年1月17日の未明に発生した阪神・淡路の震度7の地震であり、2004年10月23日の夕方に発生した川口町の、これまた震度7を記録した中越地震。 それと、2011年に これまた震度7を記録した津波による被害の多かった東日本大震災。 それと、今年 2016年の4月14日の前震で震度7と2日後の本震で再び震度7を記録した熊本地震。
ところが、その最も関心の高い熊本地震だが、日経アーキテクチャーから新発売されている表記の著書は、高すぎる。 定価が2400円で、税込価格は2592円 (2600円) 近くもなってしまう。 それほど、編集部の総力を賭けた作品だと言いたいのだろうが、要はどれだけ広範囲に読まれるかがポイント。
先に採算性を考えている著書なんて 絶対に買いたくないと思ったが、新耐震基準による倒壊が多いと書いているので、買わざるを得なかった。

ともかく、現役だった1995年の阪神・淡路の大震災や2004年の中越地震の時は、地元に適切な案内人がいたので、駆けつけることが出来た。 阪神・淡路大震災では、自らも 神戸に住んでいて 持っていたアパートも大きな被害を受けた松下電工の長年の仲間が案内してくれた。
神戸の被災地に入って驚いたことは、「関西では、地震の心配は 一切ない」 と言う神話が浸透していて、10.5センチ角ではなく、9.0センチ角の細い柱があまねく普及していたこと。 地元の建材仲間から、「ともかく、運送途中で折れる通し柱が 応々にある。 それほどひどい材を使っている」 と聞いてはいたが、神戸の現場は本当にひどかった。
基礎に鉄筋が入っていないものが半分近く占めていたし、太い柱で10.5センチ角にすぎず、半数以上が9センチの角材。 それこそ運送途中に折れる心配のある通し柱。
神戸市の死者2456人のうち、92%の2221人が15分以内に死んでいたという理由は当然。
神戸市だけではなく、死者6434人のほとんどは 通し柱が簡単に折れ、1階で寝ていた老人を中心に、倒れてきた2階の下敷きになって即死したものと考えて、間違いなかろう。
たしかに、中には家具などの下敷きになり、脱出困難で 火災で焼かれた人もいたろう。 だが、通し柱が折れて1階があっという間に潰されている現場を多く目撃された。 私は「神戸地震は、大工さんなどの建築業者が加害者であった」 と結論づけざるを得なかった。
そして、在来木軸で食っていた大工さん以下は、どのような形で責任をとるのか?  私には在来木軸の未来は、これで絶たれたと感じた。

一方、中越地震ではトステムのスーパーウォールで以前から付き合っていた 六日町から十日町方面を地場とする トピアホームを訪ねて取材を行った。 そして、震度7を記録したのは川口町だと知りスーパーウォールで実績のある渡部建設の案内で、川口町の激震地を案内して頂いた。
さすがは多雪地。 神戸のような10.5センチ角とか9センチ角と言った柱や通し柱はない。 少なくとも4寸角 (12センチ角) とか、中には5寸角 (15センチ角) という柱が目に付いた。
そして、私かとくに驚いたのは、多雪地のために ほとんどの家の1階はダブル配筋のRC造。 そうして2~3階が在来木軸で建て、雪の多い冬季は 2階から出入れしていた。 このため、1階の土間は物入れとか車の置き場として活用されていた。
この1階のRC造が、震度5~6の五日町や震度7の川口町でも 全く傷ついたものを見かけなかったこと。 つまり、外壁、床、野地に構造用合板を使用したスーパーウォールは強かった。
半壊以上の物件も目には付いたが、全壊は1戸もなし。
そして、激震地ではスーパーウォール以外は全滅という現場を多く見た。 しかし、その倒壊した建築物の1階のRC造に被害が皆無。 このダブル配筋の頑丈さには、心底から驚かさせられた。
と同時に、ツーバィフォーと在来木軸との「アイの子」に過ぎないスーパーウォールの丈夫さにも感動させられた。

渡部建設の注文住宅には 大きな家が多かった。 このため、内部の石膏ボード張り部分には、軒並み4寸の1/2とか1/3というスジカイが使われていた。 つまり、40ミリから60ミリのスジカイが使われていた。 このスジカイはどうなったのか‥‥。
圧縮力で全てののスジカイは面外へ挫屈して、石膏ボードを吹き飛ばしていた。
それが、1例や2例だったら許せるだろう。 私が見た全ての現場で、太いスジカイに石膏ボードが吹き飛ばされていて、耐力壁としての効果ゼロ。
この現実を見た時、私はスジカイの効果に大きな疑問を感じた。
ところが、信州大学と築波大学の先生が、この中越大震災の現場へ入っている。
私もムリをしてその発表会に参加させてもらったが、両先生の発表内容にはがっかりした。
確かに、両先生とも倒壊した在来木軸の現場へ入っている。 それは 何葉にも映し出された写真が正直に物語っていた。
しかし、両先生に共通する欠陥は、被害を受けていない1階のRC造に対して、何1つコメントしていなかったことと、中越地震で倒壊しなかった現場を全く 踏襲していないだけでなく、何1つ教訓を現場から得ていないことだった。

この著書では、表題が示しているように、「なぜ新耐震住宅は、潰れたのか?」 という大きな疑問を投げかけている。
ご存知のように、1981年にそれまでは震度6で倒れない建築物を、建築基準法上 「耐震建築物」 と呼んでいた。 それが1981年に建築基準法の大改正が行われ、震度7でも倒れない住宅のことを指すようになった。
つまり、耐震建築物といっても、1981年以前と以降は、全く変わったものに。 つまり、1981年以前のものを 「旧耐震基準」 と言い、1981年以降のものを 「新耐震基準」 という。
さらに、2000年に、「基礎」 「柱梁やスジカイの接合部」 「壁のバランス」 に関する告示がなされたので、この著では 「2000年基準」 と呼称して用いている。
今度の熊本地震で被害を受けた住宅は16万棟にも及んでいる。
例えば、1995年の阪神・淡路大震災では、調査した421棟のうち 1981年以前の 旧耐震基準が圧倒的で97%を占め、新耐震基準は13棟で、わずかに3%を占めるだけだった。
◇旧耐震基準    倒壊   大破      小・中破     無被害 
   408棟     77棟   81棟       225棟      25棟
◇新耐震基準
    13棟     1棟              6棟       6棟

これに対して、熊本地震の旧新基準や2000年基準、時期不明の1940例の比率は以下のようになっている。
◇旧耐震基準    倒壊   大破      小・中破     無被害
   702棟 (36.2%) 225棟   124棟      322棟       31棟
◇新耐震基準
   800棟 (41.2%) 73棟    78棟      482棟      167棟
◇2000年基準
   242棟 (12.5%) 7棟    10棟       91棟      134棟
◇時期不明
   190棟 (10.1%)               102棟       78棟
なんと新耐震基準と2000年基準が53.7%を占めている。
そして、これ等の新耐震基準と2000年基準にもとづいて施工された住宅の、なんと4%以上が熊本の2度にわたる震度7の地震で倒壊している。

日経新聞は、この著で言いたかったことは、「熊本地震の新耐震住宅の4%以上も倒壊したのだから、新規に2016年度の新しい基準を設けるべきではないか」 との提案だと思う。
私も、この提案には大賛成。
しかし、この本の第6章 「危ないスジカイ」 や、第7章の 「危ない軸組」 を読むと、日経ホームビルダーとして在来木軸工法の、「この点を こう変えるべきだ」 と言う点が、大変にあいまいで、スジが通っていない。
このままでは、金物工法とかミサワホームの言うように、やたらなに高価な新商品を押しつけられることになりかねない。
世界の木造住宅を見ると、大変耐震性能が良いだけではなく、防火性能にも秀でた木質構造がうじゃうじゃしている。
単に国内の製材工場に拘るのではなく、国産材を大切にしながら、消費者に安価で性能の高い住宅を供給してゆく義務が日経新聞にもあると思う。
その具体論について、次回には触れたいと思う。




posted by uno2016 at 09:03| Comment(0) | 書評(建築・住宅) | 更新情報をチェックする
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