
この本の副題は 「小中学生から始めるファシリテーション入門」
最近、やたらにヨコ文字を使った著書が多い。
簡単なヨコ文字なら なんとか理解が可能だが、「ファシリテーション入門」 と言われて、
その意味を完全に理解出来る人は、いったい 何人いるだろうか? それとも私の語学力が
低すぎて話にならない、と言うのなら黙って引下がるしかないのだが‥‥。
ファシリテーションとは 英語のFacilitationのこと。 「会議、ミーティング等の場で
、発言や参加をうながしたり、話の流れを整理したり、参加者の認識を一致させたり、
合意の形成や相互理解をサポートすることによって、 組織や参加者の活性化・協業を
促進させるべく リーダーが持つべき貴重な能力の一つ」 と、ウィキペディアには書いてある。
詳細なことは、各自で調べていただきたい。
小学6年生のぼく。 学校への登校はやたらに早い。 なんと 毎朝7時半には教室へ着いて
いるという。 皆には 「両親が共稼ぎなので、朝が早いせいだ」と言ってあるが、事実は
違う。 たしかに共稼ぎであることは間違いない。 しかし、両親と一緒に家を出ると教室へ
着くのは8時過ぎになる。 だが1時間半前に教室へ着くのは、誰もいない教室で「今日は
どんなことか起るか」 を想像するのが秘やかな毎朝の楽しみだから‥‥。
こんなことを言っても誰も信用はしてくれない。 したがって、両親にも内証の話。
そのぼくが、「そろそろ8時か‥‥。 次に来るのは ぼくと同じ両親が共働きの航君か、
それともクラス一の慎重派で早く着いていないと気が済まないさくらか? あるいは
最近一人でこっそり鉄棒の特訓を始めた蓮君か?
足早の靴の音が廊下から聞こえと思ったら、ガラガラと教室のドアを開いたのは担任の
裕子先生だった。 予想もしない展開にびっくりして、「お、おはようございます」と
ぼくはあわてて挨拶をした。
裕子先生は、ぼくが2年生の時に初めてうちの学校へやってきたから、今年で5年目になる
若い先生。 やさしく思いやりがあって、生徒からの人気も高い。
「おはよう、樹 (いっき) 君。 いつも早いわね」
ん。 いつも?
先生は、ぼくがいつも7時半に登校することを知っているのだろうか?
裕子先生は いつも授業が始まるベルが鳴ってから教室へ入ってくる。 今まで1度も 8時前の
早い時間に裕子先生が姿を現したことはなかった。たからビックリした。
「実は、今日の5時間目の学級会についてだけど、一つお願いがあるの」
「なんですか?」
「今日の学級会は学芸会の発表について話し合おうと思っているけど、そのための専用の
議長団をつくることにしたの。 そこで、樹君に議長をやってもらいたいのよ」
「え!」
耳を疑った。 議長と言うのは、学級会の司会役だ。 ただでさえ人前に出るのが不得意で、
普段の授業だって手を挙げることに恐怖を感じているのに、議長なんて務まるはずがない。
いきなり、何を言い出すんだ、この先生は?
「ぼくが?」
「そう、樹君が」
「‥‥‥」
胸に、ドス黒い緊張感が走った。
裕子先生の目はぼくをじっと見つめている。 裕子先生はとてもおだやかで やさしい表情を
しているが、その目からは強い意志がビンビン伝わってきた。
「大丈夫、樹君ならできるよ!」
「でも、ぼく、ぎ、議長なんてゃったこともないし、やりたいと思ったこともない!」
「誰だって、初めての時はやったことがないものよ」
「そりゃそうですが‥‥」
「そんなに心配する必要はないわよ」
「はあ‥‥」
「やってくれるわね」
「‥‥‥‥」
断りたくて、心臓がバクバクしている。 しかし、本当に断れるのか‥‥。
結局は、裕子先生に押切られてしまった。 何と言うことだ。
えらいことになってしまった‥‥。
この小説は、たったの100頁。
それでも、プロローグやエピローグ以外にも5章から成っている。 大変短い小説。
それでも、最近読んだ小説の中で一番感動させられた。
第2部には、著者が言うところの「小中学生から始めるファシリテーションの入門」 や
第3部には 「お勧め図書紹介コーナー」 が設けられているが、これはどこまでも
「付け足し」 に過ぎないようだ。