2016年07月10日

今まで、誰も書かなかった 「量産型資本主義体制の終焉」!?


投資銀行家・ぐっちいーさん著 「ニッポン経済 世界最強論!」(東邦出版 1500円+税)
002.JPG

こんな面白い著書が出版されていたとは知らなかった。
著者は投資銀行家の山口正洋氏。 1960年に東京生まれ。 慶大卒後、丸紅を経て主にアメリカやシンガポールのなどの金融機関で働いていた現役のビジネスマン。 1986年にブティックな投資銀行を設立。「ぐっちーさん」 というぺンネーム名でブログ・メルマガなどで 人気を博すとともに、朝日新聞出版や扶桑社に連載を持ち、テレビやセミナー、あるいは出版などで大活躍して多忙な生活を送っている。
この本は、今年の2月に刊行された。 そして、小平の図書館には3月には納入され、「新刊到着案内」 に紹介されていた。 それを見た私は、他の目ぼしい図書と一緒に 「見閲希望」 を申込んだ。 同時に申込んだ他の図書はとっくに読み終え、3日以内に図書館へ返却している。そして、この図書を申込んだことは すっかり忘却していた。
そしたら、2週間前に喜平図書館から 「お申込みの図書が到着していますので、取りに来て下さい」 との連絡が‥‥。「いまごろ図書が到着しているなどおかしいな。 きっと、後で申込んだ図書が到着したのだろう」 と図書館へ参上。 そして手渡しされたのがこの本。
読んでみると、やたらに面白い。 私がこの本を手にするまで2ヶ月以上かかった理由が 納得出来た。 早読みで定評のある私が、何と13日間も手元において、熟読している有様。 申込んでから2ヶ月以上かかったのは、当然。

さて、この著書は6章から成っている。
とくに第2章の 「日本の国債は強くて美しい」 と、第3章の 「これが日本のYENの実態」 と、第4章の 「日本株、米国株で儲けるには?」 は、債券の基本的メカニズムや実際に金融投資をやったことのない私には、理解出来ても解説を加える能力がない。
したがって 第1章の 「ニッポンの国力を正しく測る」 と、第5章 「日本にとって良い事だらけの米国経済」 と、第6章の 「私の経済・金融の新思想」 の3章の範囲だけにとどめさせていただきたい。 と言っても、第1章は読んでいただくしかない。 日本経済の先行きに私を含めて多くの人が疑問を抱いている。 それに対して、外人を含めたいくつかの事例で猛反発。 久々にスッキリとした読後感。 残念なかららこれらの全てを紹介することは出来ない。 関心のある向きは、是非この本を買って頂くしかない。 それだけの内容と価値のある一冊だと信ずる。

私が主に取上げたのは、第6章の「私の経済・金融の新思想」。
この中で著者が強調しているのは、現代資本主義経済はこれまでと全く違った次元に突入しているということ。 アベノミクスと言われる金融緩和、円安、公共投資などは 1980年代には極めて効果があったが、現在では全く無力。
そもそも今までの資本主義は、1920年にフォード社の大量生産のベルトコンベアシステムから始まっている。 大量生産システムを可能にするには、それなりの設備が必要になるので 多額の投資が必要になる。 同時に、大量生産には大量消費という裏づけがなくてはならない。 このためには大量生産によって、値段を下げて 「買ってみたい」 という気持ちを起させねばならない。
こうした大量生産されたものが、売れ残っては困るので広告宣伝費に莫大な費用をかけてメーカーは大量消費を図る。 当然価格も下げられ、陳腐化して利益が出なくなると、次の製品が開発され、この繰返えすことによって資本主義は維持されてきた。 つまり、資本と技術力と労働者の数と質が常に問題視されてきた。
日本では戦後、洗濯機、テレビ、炊飯器などに代表される家庭用電化製品や車、衣料品、ドリンク剤、化粧品、医療品などが、こうして全家庭に消費枠を拡げていった。 この場合 消費者サイドの趣向は若干尊重されたが、製品の内容を決めるのはメーカーの開発業者であり、消費者はそれに準じてもっぱら消費するしかなかった。
つまり、問題になるのは供給サイドの生産能力であり、これを喚起するものとして金融政策や公共投資の増大が、経済政策として重要視されてきた。

ところが、先進国の中で最近の10年間の間に、消費者が重大な変化を起して大量生産システムの根本を変えてきている。 つまり、大量生産された工業製品の汎用品を、「皆が持っているから、私も欲しい」 と思わなくなってきた。 むしろ「皆が持っている工業製品はダサクて、カッコ悪い」 と思うようになってきた。
代表的なのが食品。 例えばシアトルでは、レストランのシェフだけではなく、少なからぬ消費者が近郷の農場にまで足を運び、野菜の栽培方法や土壌をチェックしたり、牛や豚がどういう環境やポリシーで飼育されているかをチェックして買っている。 中には 自分で家庭菜園を開いている者まで存在してきている。
つまり、スーパーで売られている大量生産食品の安全性に疑問を抱きはじめてきている。 となれば、自分で農場まで足を運んで確かめるしかない。 この方が、はるかにカッコ良いと考えられるようになってきた。
食料品でさえこの有様だから、他の工業製品の場合は、もっとダイナミックに大量製品からの離脱が進んでいる。 三洋電機が倒産したり、シャープが台湾メーカーに身売りをしたり、ソニーが苦戦を強いられているのは、その象徴と言えよう。 単品の大型需要は もう発展途上国にしかないということ。

大手企業は、消費の多様化という動きにミートするため、どんどん組織を細分化している最中。
だが、「残念ながら大手スーパー、家電の量販店、ファストフードが復活するという目は全くない」 と筆者は言う。 消費者が求めているのは高度なハンドメード。 高度なハンドメードで一つ一つニーズを捉えて、丁寧に造る。 それに対応出来ない企業は、潰れるしかない。
ということは、日本の中小企業こそがその最適さを昔も今も備えているということになる。 お客様の細かい要求を満たす技術力や、サービスの工夫レベルの高さは、現在も全く失われていない。 これから多様化する需要に応えられる人的資本を持っている国は、日本しかない。
インターネットのハード面でも日本が圧倒的に有利。 これだけ早い光ファイバー網を持っているのは世界の中で日本だけ。
このすぐれたIT環境は、大企業だけではなく中小企業も平等に利用出来る。

日本には、まだ 「世界のマイクロビジネスセンターに 日本がなる」 という発想がない。「これは政府が 大企業優先策」 とっているためだが、金融政策を変え 「資金量の3%は必ず従業員10人未満で、創業5年以下の企業に融資すること と縛れば、いい企業がワンサと出てくる」と著者は言う。 私は著者の意見には大賛成。
私は、Q値0.8W以上の住宅を提供出来る中小地場ビルダーを育成したいと考えているが、一条工務店以上のシステムと性能を備えた業者は、未だに出現していない。 問題はQ値の多寡よりも、安心出来る太陽光発電の安い生産システムとその普及システムの開発にある。 こうした面で一条工務店を上回るシステムが開発されず、この数年間は、同社の独占下におかれている。 
中小企業のハンドメードの普及の前に、安くて安全な太陽光とトリプルサッシの開発という現実問題があることを、忘れてはならない。

それと、第5章では 「日本にとって、良い事だらけの米国経済」 が取上げられ、「アメリカの住宅需要が動き始めた」 と筆者は書いている。 
しかし、その住宅需要が、アメリカの地場の中小ビルダーによる分譲住宅方式によるものか、日本的な限られたカスタム需要によるものかについては触れていない。 これについては、専門外の著者に期待することは、最初からムリな相談。 
住宅関係のプロがアメリカに出向いて、その実態を明らかにしてほしいと願う。


posted by uno2016 at 11:57| Comment(0) | 書評(その他) | 更新情報をチェックする

2016年05月30日

2年前に、こんな素晴らしい著書が出版されていたのですね!?


上阪 徹著「成城石井は安くないのになぜ選ばれるのか?」(あさ出版 1400円+税)

成城石井本.JPG

2年前に、この本が出版されていたことを知っている人は、何人いますか? 
「成城石井」 というスーパーの存在、そのものを知らない人が多いのではなかろうか。 実は、私もこの本を読むまでは、まったく知らなかった。
なにしろ、駅ナカの小型店舗や郊外の大型店舗を含めて、全国で 130店舗程度を展開しているらしいのだが、同社のネット上で表示されている店舗数は117店舗しかない。
しかも73%に当る 85店舗が世田谷・成城を中心とする東京と横浜に集中。 埼玉6、千葉4で、茨城・栃木・山梨が各1店舗。 大阪・兵庫・京都・奈良で 16店舗。 愛知・静岡・岐阜でも13店舗しかない。 それ以外はネット上では北海道、東北、北陸、中国、四国、九州を含めて店舗数が0の県ばかり。
東京に長く住んでいる私ですら、スーパー・成城石井は 知らなかったのだから、店舗のない地方の方が知らなくて当然。 それでなくてく、スーパーなどはどこにでもあり、不便を感じていない人が多いと思う。
だが、この著書を読んで、同店で買物をしたいと思い、どこに店舗があるかを調べた。 そしたら小平市には店舗がないことが判明。 一番近いのは、JR小金井駅南口2分と書いてあった。 前原坂上までの間に位置するセレオ・ビルの1階らしい。 電話して道路の右か左かを聞いた。「右だ」 というので、簡単に見つかると思って出掛けたが、それらしいスーパーは見当らない。
そこで、自転車に乗ろうとしているおばさんに、「この近くにスーパー・成城石井があると聞いてきたのですが‥‥」 と訊ねてみた。
「それだったら、駅前。 あのビルの1階!」 と言うではないか。
JR小金井駅の南口が再開発されて、セブンイレブンをはじめ 多くの店がオープンしたことは知っている。 私もいくつかのビルへ入っている。 南口駅前ビルにも、食事をするために 何度か入っていた。 エスカレーターで2階へ直行していたので、1階が成城石井の店だとは気付いていなかった。 買物をした帰りに良く見たら、外側から 「スーパー・成城石井」 の看板が、かろうじて見ることが出来た。

成城石井店.JPG

そんな次第で、一昨日と昨日の2日間、初めて同店で買物をして、品揃えなどを確かめてきたという次第。 買ったのは2日間で5000円余で、この程度では同店の魅力を語る資格はない。
著者の妻やその友達の話を要約すると、次のようになる。
「成城石井でお肉を買っていると、もう他所のお店の肉は買えない。 そもそも子どもたちが成城石井のお肉以外は食べてくれない」
「ちょっと変わったものがたべたいな! おいしい調味料や食材が欲しいな! と思ったら必ず成城石井へ行く。 そうすれば、間違いなく何か面白いものが手に入る」
「総菜のレベルが他のスーパーとまるで違う。 置いてあるものも違うし、味もびっくりするくらい本格的」
「ともかくレジが早い。 ほとんど並ばなくてすむ。 店の人が袋へいれてくれるのが叮嚀で、ものすごく上手」
「サービスのレベルが違う。 感じか良いし、何でも聞けばすぐに教えてくれる。 従業員が丁寧だし、商品に詳しい。 主人のワインは、この店でしか買えない」
ともかく、並のファンでなく、熱狂的なファンを無数に持っているらしい。

私か師と仰いだのは、日本人では下村治氏と渥美俊一氏。
下村治氏 (1910~1989年) は、ご存知の通り1960年に池田勇人首相が発表した 「所得倍増計画」 を、影で演出した経済人。 氏は 「現在の日本の企業や資本家はそんなに金を持っていない。 しかし優秀な人材は腐るほどいるのだから、環境を活かして、イノベーションさえ正しく行えば 10年間で国民所得を26兆円に倍増出来る」 と考え 「所得倍増計画」 を推進。

一方、渥美俊一氏 (1926~2010年) は、新聞記者時代にアメリカの流通業界に勃興した新潮流を勉強して、日本にチェーン・ストアと言う、5年刊で 売上100倍目標の新しい産業を起こして大手の有力企業のほとんどと小売業やフード・サービス業者を育て上げた。
私は渥美俊一氏の言う 新しいプロの商品開発の達人・マーチャンダイザーや、計数に明るいコントローラー、若手教育担当のエデュケーター、スーパーバイザーというプロを育て、5年間で住宅を含めた小売価格を半分にしなければならないという理論には深い感銘を受けた。 そして、渥美氏から、「貴方がたがモタモタしていると、私の仲間のチェーン・ストア仲間が 地域の住宅市場を奪いますよ」 との挑戦状を受けていた。
しかし私は、アメリカの地場の生産性の高いビルダー業界の実態を把握していた。 アメリカの地場ビルダーは 造船業界に学んで、早くからIE (インダーストリアル・エンジニアリング) 理論を 完全にマスターしていた。 また、共有地を30%以上と大きくとる 「オープンスペース・コミュニティ造り」 の達人でもあった。
したがって、彼らはアメリカ生まれのグローバルなハゲタカ資本主義は、基本的に 怖いとは感じていなかった。 これに倣って私が指導していたのは、地域密着型の地場ビルダー資本主義。
地域のコミユニテイを尊重して、大規模な投資よりも地域の交流を大切にする企業。 人を使い捨てにするのではなく、利益を従業員や地域住民に幅広く還元する。 そして、私益より公益を優先させ、儲からなくても 撤退しない地場ビルダーの育成で、渥美氏には絶対に負けないという自負を持っていた。
しかし地場ビルダーの育成という仕事は、私の指導力不足ということもあって思うように進まなかったのは事実。

そしてこの著書で、渥美氏よりも 「消費者主導主義者」 で、アメリカの理論を上回る 消費者の支持によって店を大繁栄させていた成城石井の存在を知り、大衝撃を受けた。
同社は1927年、成城駅前の果物店として発足。 1976年から成城石井として高級食品のスーパーとしてチェーン展開。 しかし、2004年焼肉・牛角やampmでお馴染みのレックス・ホールデングの傘下に入ってしまった。 それまでは15年かかって店舗を何とか30店にまで拡げてきたが、いきなり 「3年間で100店舗にまで拡大するように」 と、レックス社から命令された。
今までは顧客のことを考えて、真剣に商品開発に取組んできたのに、新会社では 商品開発のことはそっちのけで、話はもっぱら新店舗のことばかり。 このため、あっという間にお客が離れて、業績は急激に下降。 そして成城石井の本社も、レックス本社の高級ビルの近くへ移転。 困ったのは高い家賃だけではない。 何よりも店舗が近くにないため、現場が把握出来ない。

こうした最悪条件を改善するため、新社長として2007年に派遣されたのがイトーヨーカ堂で構造改革を成功に導いた大久保氏。 氏は、「こんな良い商品があるのに、どうしてもっと売込まないのか。 POPを替えて試食販売を やって見よう」 と励ましてくれ、現在社員が必ず身につけている 「成城石井BASIC」 という24頁の小冊子を作るとともに、営業本部長に商品開発の課長だった原氏を抜擢し、それと同時に本社を横浜へ再移転して社長室なくしてくれた。
この大久保氏は 3年間で飛躍のきっかけをつくり、後任の社長に原氏を推挙した。 そして 2011年にレックス社が降りて、現在の最大の株主はローソンになっている。
2015年10月時点で、同社の社員は4255人で、資本金は52.5億円。 店舗数は2015年5月の時点で125店舗。 2014年12月の時点の年商は630億円とか。 これは同社の正式な発表ではなく、ネット上での推定数字。

ともかく、2004~2011年までの7年間におよぶレックス社による買収劇の衝撃は、同社に関係するすべての人にとって相当な衝撃だった。 そして、この衝撃があったからこそ、成城石井の価値とは何か、を改めて見直す好機になった。
レックス社が持ち込んだ覆面調査も、大久保氏の 「成城石井BASIC」 もきちんと残っている。
「これこそ、成城石井の最大の特徴。 仕入れでも、仕組みでも、何か良いものがあるとどんどん吸収して、自分達で変化させて自分達の形にしてしまう。 これは、昔から成城石井が得意としてきたことです」 とは、原社長の弁。

この本を読んで、成城石井は 「食」 にこだわった店だということが、良く分かった。
「おいしいものを仕入れて、手ごろな価格で提供する」 のが信条。
そのために、店舗が1つしかない時から 自社のバイヤーが世界を飛び回って商品探しをやっている。 現在は 「東京ヨーロッパ貿易」 という専属の子会社を持っていて、独自の仕入れを行っている。 したがって、成城石井にしかない、クォリティの高い商品が多くある。
その代表はワイン。 どの商社もスーパーも、ワインは船便で輸入している。 このため 赤道直下を通る時に、すべてのワインの味が変質する。 たしかに、ヨーロッパで飲むフランスワインにしても、イタリアワイン、オーストリアワイン、ドイツワインにしても日本国内で飲むよりも はるかにうまい。 これは、赤道直下で蒸れないため。
成城石井では、リーファー・コンテナとい低温で直輸入している。 したがってうまい。
同じようにチーズや生ハム、バターなども輸入される。 このため、輸入商材は 3割にもおよんでいるという。
もう1つ、他のスーパーと大きく異なる点は、各スーパーはバックヤードで加工している。主に揚げ物を中心に加工して店先に並べられるが、成城石井の場合は6店舗の時から、バックヤードではなく、セントラル・キッチンを持っている。
そのセントラル・キッチンを支配しているのは、一流の料理店のシェフをスカウトして 味などを一任している。 これだと、惣菜などは不味いわけがない。「どんなにリキんでも、成城石井の惣菜には勝てない」 と言われる秘密はここにある。

さて、私はヨーロッパの料理は、それほど素晴らしいとか、おいしいと唸ったことはない。
ワインよりも焼酎派であるし、胃や口よりも腸を重視する人間。
したがって、肉や牛乳、バターなど腸に悪い食物よりも、納豆、ヨーグルト、バナナ、海草類や漬物などが好物。 また、ガンに良いと言われているニンニクなどの野菜類が大好き。
このため、初日は納豆巻きと味のついていないヨーグルトと黒焼酎と塩のかかっていないカッシュナッツとくるみを買った。 正直言って、それぞれに大変においしかった。
このため、翌日はチーズケーキと、豚肉の切り落とし、納豆などを買った。 納豆は粒が大きく、量も少なくて感心しなかったが、チーズケーキには さすがにプロだと唸らせるだけのおいしさがあった。
しかし、これからも通い続けるかと聞かれると、返答に困る。
時には寄り道をするのも良いだろうが、私の理想とする店だとは必ずしも言えないからだ‥‥。


posted by uno2016 at 09:34| Comment(0) | 書評(その他) | 更新情報をチェックする

2016年05月25日

爆買いは台湾では恒例行事。何故中国本土まで拡大したのか?


鄭 世彬著「爆買いの正体」(飛鳥新社 1296円+税)

爆買い.JPG

著者の鄭世彬 (チェン・スウビン) 氏は1980年に台湾・台南市生まれというから36歳と若い。
日本では2015年から中国人旅行者の 「爆買い」 が大きな話題として新聞、テレビなどを賑わせてきている。 
日本を訪問した外国人は 2014年には1341万人で、一番訪日人が多いのは人口が一番少ない台湾で283万人、次いで韓国が276万人、中国が241万人、香港が約93万人。その他が448万人。 華人が何と46%を占めている。
これが2015年には訪日客が47.2%も増えて、1974万人に。
内訳は中国499万人と倍増し、韓国も400万人と45%の増、台湾も30%増の386万人、香港も63%増の 152万人、その他が 537万人。 華人の比率は約53%へと急増。
中国は人口1兆3000億人の国だから、500万人と言っても0.4に過ぎないが、人口2350万人の台湾にとっては386万人というのは16.4%にもなる。 毎年これだけも多くの台湾人が 日本を訪れているとは知らなかった。
なかでも、中国、台湾、香港など華人による 「まとめ買い」 が多く、日本経済全体に 大きな影響を及ぼしてきている。 このため、「爆買い」 として騒がれるようになってきた。

台湾の百貨店などでは、日本のように 季節ごとにバーゲン・セールを行う習慣がなく、年に1度だけ10~12月にかけて 「周年慶」 と呼ばれる歳末大バーゲンが開かれている。
提供されるのは衣料品だけではなく、家電、日用品、食材のすべての商品を網羅した “お祭り” だという。
このお祭りの時は、すべての商品が3~6割でデスカウントされる。
したがって、台湾のすべての家庭では 「この好機を逃がしてはならじ」 と、半年分から 1年分をまとめ買いするのが常識。
当然、テレビなどでその賑わいが放映されるので、国民的な関心が集まり、30~50代の女性を中心に、あらゆる層が買物に走るらしい。

中国のことわざに、「防範未然」 という言葉がある。
これは 「あとで困らないように、事前に備えておく」 という意味。
何しろ中国では、2000年以上も前の昔から、王朝が変わる度に社会が混乱したり、多くの自然災害に見舞われてきた。 したがって一般庶民の間で、食料品や生活必需品を 買いだめしておくというのは必然的な自衛策。
「買える物は、買えるうちに買っておく」 と言う鉄則が生まれてきた。
台湾では、爆買いは珍しいものでも何でもなく、毎年繰り返される恒例行事。
台湾のテレビ報道によると、2015年の 「新光三越」 の台湾国内の主要6店舗の 「周年慶」の初日の総売上高が56億円 (14億台湾元) だったという。 台湾人の平均収入は日本の1/3ということを考えると、すごい数値だと分かる。 まさに爆買い。

しかし、台湾はいつもバーゲンをやっているわけではない。
その点、日本は台湾に比べると、いいものは ほとんど安い。 とくに日本産のクスリや化粧品は台湾の半額近いという。
たとえは、参天製薬の目薬 「サンテFX」。 
台湾では入手出来る価格は1050円 (300台湾元) 程度。 もっとも 関税や営業税 (日本の消費税) に加えて販売業者の経費やマージンも加わるのだから この価格は当然。 最近はそうでもなくなってきたが、ここ数年来の円安で驚くほど日本製品は安かった。
日本のドラックストアなら、おそらく 300円台で入手出来たであろう。
台湾人にとって、日本は 「毎日がバーゲンセールを行っている国」 に見えたとしても、不思議ではない。

それと、台湾で日本のお土産として嵩張らず、値段も手ごろだとして喜ばれているのがクスリや化粧・美容・健康などの商品。
華人というのは、「面子」 を人一倍重んずる国。 旅行に行ったとなると、誰もがお土産を期待する。 とくに日本への旅行となると30~50万円のお土産を買込むのが当り前。
漢方の考えに 「有病治病、無病強身」 というのがある。 これは、漢方は 病気の時は病気を治し、病気でない時は身体を丈夫にする、という考えに基づいている。 台湾では 薬膳料理が盛んで、豊富。
日本の感覚と異なり、健康な時にも漢方薬を口にする。
つまり、鍋料理の中にも漢方薬を入れる習慣のある台湾では、日本のクスリは、お土産として最適で、日常的に使われていると考えて良い。
それと、台湾の人が日本へ行くと聞くと、必ず友達や知り合いからクスリ・化粧・美容・健康商品を買って来るように依頼される。
このほか、利ザヤを稼ぐために、日本から商品を購入する業者も多い。 これ等が重なって、かなり前から台湾人による日本でのまとめ買いは行われていた。

そもそも 「爆買い」 の動機になったのは、著者が台湾人のために 2012年に発行した 「東京のクスリと化粧品に関する購入マップ」。 
この著書は、外用クスリ編と内用クスリ編の上下2冊からなっている。 この本は、日本語が話せても読めない多くの台湾女性を中心に人気を博して、人口が日本の1/5に過ぎない台湾で1万部も売れたというベストセラー。
そして、翌年中国の出版社から、「版権を買いたい」 との問合せがあった。 「何故か‥‥」と著者が聞いたら、中国でも 日本のドラッグストアに対する関心は高い。 しかし、中国人が書いたものだと誰も信用してくれない。 台湾人の貴君が書いたものだと 者は安心して内容を信頼してくれる」 と言われた。
しかし、中国では海外の書籍を出版する場合は、一文字一文字をチェックするため、やたらに時間がかかり、出版されたのは2014年になってから。 しかも、基本的な構成は踏襲されていたが、表紙のデザインや著者の略歴が勝手に書換えられていて、それはひどい内容に変身させられていたという。
そして中国のことだから、当然のことながら 「海賊版」 が出回り、また中国のネットでの日本のクスリを 「神薬」 と紹介する記事が氾濫して、2015年の中国人による日本のドラックストアでの 「爆買い運動」 になっていった。

そして、台湾では炊飯器はとっくに買っていたし、まとめ買いは主にクスリ・化粧・美容・健康に限られたが、中国人の爆買いには日本製の電気炊飯器や温水洗浄便座が含まれている。
これに対して、著者は 「中国人に炊飯器が人気があるのは、内釜の材質と 付帯設備が優れていてコメがおいしく炊けると口コミで拡がったこと。 また 椎名誠氏などが明らかにしたように、中国の共同トイレは仕切りがなく、プライバシーが確保されていない。 その上 あまりにも汚く、トイレコンプレックスに悩まされているせいだ」 と断定している。
たしかに、貧富の差が激しい中国の公共のトイレは 汚なさすぎる。 このため、せめて我が家だけでも綺麗にしたい、という焦燥感は分からぬでもない。
だが、日本の一部の識者が言うように、「中国は経済成長が鈍化しているので、爆買いは間もなく終わろう」 という見解には、著者は反対している。
たしかに、円安の環境は急速に変わってきている。 けれども、台湾や中国の華人の 「まとめ買い」 の伝統は、急に変えられるものではない。 形は変わっても、華人による 「爆買い」 の伝統は今後も続くと読んでいるようだ。

評論家の中村正人氏が指摘するように、筆者はマーケティングとかコンサルティング畑の人間ではない。 どちらかというと、作家性を持った人間。 したがって第1章は面白いが、第2章以下はあまりに参考にならない。
それにしても、爆買いの裏話を正しく伝えてくれていて、大変参考になる。 たが これからのことは、筆者に任せるのではなく、日本人が責任をもって考えるべき。
筆者の指摘にある通り、日本のドラッグストアそのものが、中国人などの採用でサービスが大きく変質してきていることを、日本人はもっと理解すべきであろう。


posted by uno2016 at 07:03| Comment(0) | 書評(その他) | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。